小路に咲いた小さな花
諦めないで……か。

……もしかしたら、私は最初から諦めていたのかもしれないな。

近所のお兄ちゃんから、好きな人になって……

きっとあれが初恋なんだと気づいた、あの日から。

大人になれば、そういう対象としてみてくれると思っていたけど、実際はそうではなくて。

だって、大人と言われるような年齢になったとしても、8年の年の差が埋まる訳じゃない。

いつまでもいつまでも、敬ちゃんとっては幼馴染みの女の子なんだと思って。

……意思表示したことも、努力もしたこともなくて。

せめて私が素直なら、敬ちゃんにもっと好きだって意思表示してたと思う。

好きだって言い続けて、努力していたかもしれない。

努力してたら、もっと早くに変わっていたかもしれない。

けど、

「なんで落ち込んでるの」

「うん。何だか色々と……」

「言わないと解らないけど。彩菜も実は解りやすくないし」

それはすみません。

「解ってたら色々と対応も違うしさ。言ってみ?」

いやぁ。

「昔から敬ちゃんには子供扱いされてたけど、大人になってからも努力らしい努力してないしなぁ……なんて」

「え。それは……仕方がないだろ。俺が遠ざけてたようなもんだし」

「いや。男の友達がいなかったのは敬ちゃんのせいかも知れないけど、意思表示もしたことなかったし」

「3年前にしただろ」

指をつきつけて、好きだって?

それはそれでどうかと思う……

「あれから彼女欲しいなぁって言っても、彩菜は見事にスルーしてくれたけどな」

「…………ん?」

「まぁ、あの日は最後に“嫌いになってやる”とか言われたけど」

「…………」

それはまた……大変だ。

「ありゃ~。見事に絶望的な顔してんね」

「わ、私が、そんなことを?」

「まーねー。さすがにあの時はどうしてやろうかと思った。彩菜は素直だけど素直じゃないし。とりあえず、俺の部屋に連れて行ったら寝るし」

「け、敬ちゃんの部屋で?」

「うん。気持ちよさそうに寝てたし。どっちだよって思ったのも確かなんだけど……」

ふよふよと視線を外されて困った顔をされるから、私も何となく困った。

「とりあえず、降りようか」

「あ。うん」

手を引かれて立ち上がり、電車を降りると改札を抜けて歩きだす。

……都心に来るのは久しぶり。

休日の昼前なのに、たくさんの人が歩いていて目まぐるしい。

「女の人の化粧品には詳しくないけど、どんなのがいい?」

「えっと……普通」

「……どこの何を基準に考えて普通」

「ギャルじゃなくて、ナチュラルな感じに?」

「……彩菜。もしかすると買い物につきあう人の人選間違えてるかも」

「私も薄々気づいてた」

お互いに顔を見合わせ、それから思いきり吹き出した。

「こ、今度、水瀬さんにそれとなく頼んでみようか?」

「頼めるの?」

「大丈夫じゃないかな。彩菜可愛がってくれてたみたいだし……って、俺が直接頼んだら葛西に怒られそうだから、磯村経由だな」

「あー。それは悪いから、雑誌見て研究しておくよ」

「じゃ、とりあえずはブラブラして、疲れたら昼飯でも食おう」

「あ。じゃ、雑貨屋さんあるかな。最近、店の中が簡素に見えて」

「……あー。うん。なにかあったらね」

「敬ちゃん。あまりお店知らない?」

「まー……彼女いない歴数年になりますので」

「大丈夫。私は24年になるから!」

「この間までね」

間近でニヤリと笑われて、思わず繋いだ手をぎゅっと握り返した。

「敬ちゃん」

「うん?」

「敬介って呼んでもいい?」

「え……」

敬ちゃんの顔がポカンと空白になって、それからまじまじと見つめられた。

「どうぞ?」

「け、敬……敬介」

「うん」

「……ちゃん」

「ダメじゃん」

いやぁ。案外ハードル高い。
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