小路に咲いた小さな花
「いきなりどうした」

「だって。敬ちゃんて呼ぶの私だけだし」

「でも、逆にそう呼ぶの、彩菜だけの特権じゃない?」

不思議そうに言うから、唇を尖らせる。

「子供っぽくて嫌」

「……あー。そうか。そういう感じ」

うん。そういう感じ。

「敬介……って呼べたら、感じが、変わるかと……」

「呼ぶ度に顔真っ赤になられてもなぁ……」

「困る?」

「なんか照れる」

「……笑ってるのに?」

めちゃめちゃ笑ってるじゃないか。

と、言うか、笑わないように頑張ってるけど笑ってるじゃないか。

「いや。さすがに……笑うしかないよ。呼ぶ度に目は泳ぐし赤くなるし」

「ご、ごめん」

「謝られてもな。とりあえず、彩菜」

「うん?」

「雑貨屋さん見つけた」

「あ。見る見る」

指を指す方に向かいかけ、手を引かれてこけそうになった。

「きゃっ」

と、敬ちゃん支えられ、思いきり睨み付ける。

「さすがに危ないから!」

「吊り橋効果ねらってみた」

「絶対違う。これは違うから!」

「え。そう?」

「そうだよ! 吊り橋効果はねぇ。お互いに怖い思いをしたドキドキが恋愛のドキドキみたいな感じでね……」

「あー……そっか。彩菜ビックリさせるだけじゃダメか」

「根本的に何かが間違ってると思うのね」

「今度は違うようにする」

て、ニッコリ微笑まれても。

なんて言うか、ガミガミ怒る私に、素直に頷いている敬ちゃん。

初デートにしては、やっぱり奇妙としか言いようが……

それでも楽しく買い物して、黙って付き合ってくれる敬ちゃん……

敬介……に、何だかドギマギする。

だって、いつもだったら何か言ってくるし、からかってくるのが普通だし。

何だか、何だろう。

見守られている感が半端ない。

「だ、黙って見てないで、敬介も買い物ないの?」

「俺の?」

「さっきから、私だけ買い物してる」

「……うーん。どちらかと言うと、さっきから雑貨屋巡りだしなぁ」

あ。

回りはキラキラ可愛らしいモノに溢れた、ファンシーな雑貨屋さん。

ここで敬介が、アレコレ選んでいたら……

ちょっと引くな。

「じゃ、今度は敬介の買い物付き合う」

「ああ、そこは気にしなくていい。結構楽しんでるから」

買い物もしないで楽しいの?

ただただ付き合ってくれて、しかも荷物持ちまでしてくれてるし。

それって楽しいのかな。

「彩菜くるくる表情変わるし、一喜一憂してるし。見てて飽きないし」

貴方はどこの気障男さんですか。

「まぁ、何か選ぶかな。見てたら彩菜は自分の選んでないみたいだし」

「え。何か選んでくれるの?」

ちらっと見下ろされて、それから小さく笑われた。

そして選ばれたものは……
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