小路に咲いた小さな花
黄緑色の毛糸の髪。
フェルトで作られた黒い肌に赤く分厚い唇。
目は上下に向いてるし、なんとなく埴輪ポーズのその人形。
どうして赤いスーツを着てるのかな。
ホスト系人形?
「敬介って名前にしようかな」
「え? なら、寝る時も風呂はいる時も肌身離さず宜しく」
ニヤニヤ笑いながら、小さく首を傾げられる。
よろしくしないから。
冷たい視線を向けると、吹き出しかけて慌てて俯かれた。
……いいけどね。
こういう“からかい”は昔からだし。
おしゃれなカフェでお茶しながら、忍び笑いを漏らしている敬介を眺める。
うんうん。
敬介って呼び慣れてきた。
「……でも久しぶりだね。二人で出歩くの」
「ああ。そうかもな。商店街じゃ顔会わせてたけど、出掛けるのは久しぶり……数年ぶりか?」
「うん。いつも休日は出歩いてるし」
「彩菜寝てるじゃん」
「だから、寝てないって」
それなりに忙しいんですよ。
「でも、いつもカメラで何を撮ってるの?」
聞いてみると敬介は眉を上げ、それから持っていたカップをソーサーに置いた。
「なに? 今まで聞いてきた事もなかったのに」
「聞いたことはなかったけど、どんなかな……とは思っていたよ?」
休日はカメラを片手に出掛けるから……
どんなものを撮っているのか、とても興味ある。
私なんて、いざカメラ……とすれば、旅行とかで思い出作りしか思い浮かばないし。
「あー……その辺、かな?」
「その辺?」
「うん。商店街の裏路地入ると、なかなか面白い」
そう言って笑う。
よく、解らないな。
裏路地って、結構潰したダンボールだとか、でっかいポリバケツだとか、野良猫のたまり場になっていたりするけど。
面白いかな?
「俺みたいに、外に働きに出てると逆に新鮮なんだよ」
「そうなの?」
「逆に、こーゆー場所の方が日常だから」
まわりを見回すと白い壁。
そこにシンプルなポストカードサイズの絵。
大きな窓と、向こうにはお洒落なテラス席。
まだ寒い時期、さすがにテラスに出る人はいないけど、それなりに埋まっている席は、観葉植物でとても巧妙に仕切られている。
「お洒落な感じが日常?」
「まぁ、普通? うちの会社の近くだともっとシンプル」
「お洒落は憧れるけど」
「下町の方が俺はいい」
「……ならなんで会社勤め始めたのよ」
意味わからない。
確かに良い大学出てるのに、商店街で働くって方も解らないけど、好きならわざわざ外に働きに行くこともないと思うんだけど。
「俺のうち跡継ぎいるし」
「奏ちゃん?」
「うん。まぁ、古本屋だし、真面目な兄貴の方が合ってるだろ?」
カップ越しに見ると、どこか複雑そうな表情が見えた。
……そうだな。
古本屋の兄弟は、よくまわりに叱られていたけど、奏ちゃんは敬介より叱られる頻度は少なかったかも。
まぁ、奏ちゃんは12歳も離れていたから、あまり遊んだ記憶もない。
でも、それを考えても奏ちゃんは真面目……
フェルトで作られた黒い肌に赤く分厚い唇。
目は上下に向いてるし、なんとなく埴輪ポーズのその人形。
どうして赤いスーツを着てるのかな。
ホスト系人形?
「敬介って名前にしようかな」
「え? なら、寝る時も風呂はいる時も肌身離さず宜しく」
ニヤニヤ笑いながら、小さく首を傾げられる。
よろしくしないから。
冷たい視線を向けると、吹き出しかけて慌てて俯かれた。
……いいけどね。
こういう“からかい”は昔からだし。
おしゃれなカフェでお茶しながら、忍び笑いを漏らしている敬介を眺める。
うんうん。
敬介って呼び慣れてきた。
「……でも久しぶりだね。二人で出歩くの」
「ああ。そうかもな。商店街じゃ顔会わせてたけど、出掛けるのは久しぶり……数年ぶりか?」
「うん。いつも休日は出歩いてるし」
「彩菜寝てるじゃん」
「だから、寝てないって」
それなりに忙しいんですよ。
「でも、いつもカメラで何を撮ってるの?」
聞いてみると敬介は眉を上げ、それから持っていたカップをソーサーに置いた。
「なに? 今まで聞いてきた事もなかったのに」
「聞いたことはなかったけど、どんなかな……とは思っていたよ?」
休日はカメラを片手に出掛けるから……
どんなものを撮っているのか、とても興味ある。
私なんて、いざカメラ……とすれば、旅行とかで思い出作りしか思い浮かばないし。
「あー……その辺、かな?」
「その辺?」
「うん。商店街の裏路地入ると、なかなか面白い」
そう言って笑う。
よく、解らないな。
裏路地って、結構潰したダンボールだとか、でっかいポリバケツだとか、野良猫のたまり場になっていたりするけど。
面白いかな?
「俺みたいに、外に働きに出てると逆に新鮮なんだよ」
「そうなの?」
「逆に、こーゆー場所の方が日常だから」
まわりを見回すと白い壁。
そこにシンプルなポストカードサイズの絵。
大きな窓と、向こうにはお洒落なテラス席。
まだ寒い時期、さすがにテラスに出る人はいないけど、それなりに埋まっている席は、観葉植物でとても巧妙に仕切られている。
「お洒落な感じが日常?」
「まぁ、普通? うちの会社の近くだともっとシンプル」
「お洒落は憧れるけど」
「下町の方が俺はいい」
「……ならなんで会社勤め始めたのよ」
意味わからない。
確かに良い大学出てるのに、商店街で働くって方も解らないけど、好きならわざわざ外に働きに行くこともないと思うんだけど。
「俺のうち跡継ぎいるし」
「奏ちゃん?」
「うん。まぁ、古本屋だし、真面目な兄貴の方が合ってるだろ?」
カップ越しに見ると、どこか複雑そうな表情が見えた。
……そうだな。
古本屋の兄弟は、よくまわりに叱られていたけど、奏ちゃんは敬介より叱られる頻度は少なかったかも。
まぁ、奏ちゃんは12歳も離れていたから、あまり遊んだ記憶もない。
でも、それを考えても奏ちゃんは真面目……