小路に咲いた小さな花
「それって、伊原さんが皆が食べるもの全部作っているってこと?」

それはどうなの?

宅飲みの常識は知らないけれど、それってどう?

「わ、私も何か作った方がいい?」

お料理に自信があるわけじゃないし、お洒落な食べ物は作れないけど、さすがにそれは……

「あー。伊原さん困ると思うな」

困るの?

「だって、飲み物注ぐコップに汚れがないか確認したり、缶ビールをウェットティッシュで拭き取ってから飲みはじめたり、磯村以外の人間の隣には絶対座らない人はどう思う?」

それは……

「見ず知らずの人間が作った料理は食べない……かな?」

「でしょ? 本人も何も言わないし、磯村からは何も言われてないけど、そんな感じだから」

「あ。じゃ、生花じゃなくてブリザードフラワーにするかな。その方がよさそうだね」

敬ちゃんはうんうん頷きながら、テーブルに頬杖をついてニコニコし始めた。

「………………」

「………………」

た、食べにくい。

「彩菜っていーい感じだよね」

ニコニコ首を傾げてる敬ちゃんは、30過ぎてるのにビミョーだよ。

「何が?」

「話し方もゆっくりだし、ぷにぷにしてていい感じ」

カチンとしたわ。

「何。太ってるって言いたいの? それって女の子には禁止ワード。だから敬ちゃんモテないんだから」

「男にモテないも禁句だと思う」

ブツブツ言って、そっぽを向いた。

いいけどね。

ちょっとぷにぷにしてるのは知ってるもんね。

チョコレートは大好きだし、飴はいつも常備してる。

新発売のお菓子には目がないし、最近商店街の奥にできた、計り売りのキャンディショップをウロウロしたりもする。

花を型どったべっこう飴に釘付けになっていたのは内緒の話。

でも、敬ちゃんがあっちをむいてくれたから、心置きなくお漬け物をかじった。

ごはんにピッタリの、ちょっと甘くて、しっかり塩気もあって、じんわり鰹の味がする。

ポリポリぱりぱりのたくあん。

「彩菜は、んまそ~うに食うよね」

二度目のカチン。

「大食いだって言いたいの!?」

「あ。怒った」

怒るよ!

当たり前じゃないか!

ぷにぷにに、大食いなんて言われて、怒らない女の子なんていないんだからね!

「いいじゃんか。可愛いんだから」

「……は?」

「あ。ごめん会社から電話~」

スマホ片手に店を出ていく敬ちゃん。

「…………」

コトリとテーブルに置かれた番茶。

ちらりと見ると、定食屋さんの看板おば……お姉さまの奈美さんと目があった。

「敬介は、相変わらず天然小悪魔ね」

「…………あははははー」
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