小路に咲いた小さな花
え……なんだろう、その反応。

不味かった?

慌ててカレーライスを食べてみるけど……

普通のカレーライスの、いつもの味だけど。

「……何か変な味した?」

恐る恐る聞いてみると、敬介は口の中のカレーライスを飲み込んで、それからクスクス笑い始めた。

「なにー。なんなのー?」

なにこの人ー。

「いや。なんかうちのカレーライスだから……丸っきり」

「え? そうかな?」

敬介にカレーライスを出すのは初めてだけど、これってうちで作ってるいつものカレーライスよ。

何かをどう変えた訳でもないし。

「市販のカレールーの他に、すりおろしたリンゴと玉ねぎ……後はニンニクも入ってる?」

「うん。少しなのによくわかったね」

「まぁね。作り方はうちの母親直伝か?」

ああ。なるほど?

「そりゃそうよ。私の料理の師匠はママさんなんだから」

「煮物系は違うじゃん」

「あれは私の好み」

言うと、何故か両手で顔を覆って笑い始めた。

「あー……もう。まいるなー」

唐突にそんな事を言われる私の方が参っちゃうよ。

「どーでもいいけど食べてよね。カレーライス嫌いじゃないでしょ?」

「好きだよ。好きだけど、こうまで同じってなかなかないよな」

「解んないよ。ママさんの手料理食べてたのなんて、中学までなんだから」

食べながら文句も言い合う。

敬介は、時々ふっと思い出したように笑いながらカレーライスを食べ終えて、食べ終わった食器を片付け始める。

「洗い物は苦手なんだよな」

「やったことあるの?」

「そりゃね。たけど、やり直された」

つまり、雑なんだな。

スポンジに洗剤を含ませて、あわあわを出しながら、何故か隣に立っている敬介を見上げる。

「……なに?」

「なんか良いよね。庶民的で」

急に何を言っているんだか。

食器を洗いながら苦笑する。

「うちはよくも悪くも庶民的ですからね。親父様もママも商店街の生まれだし。花屋も私で四代目だし」

「うちも似たようなもんだよ。母さんは違うけど」

ママさん商店街生まれじゃないんだ。

でも、嫁に来たんだから同じよね。

すでに何十年経ってれば、立派に商店街の一員でしょう。

そのようになると言うか、巻き込む気質がここにはあるよね。

「彩菜。明日デートしよう、デート」

「デート?」

突然……まぁ、敬介はいつも突然だけども。

「何気ない日常も好きだけど、たまには違うこともいいだろ?」

「でも……」

初デートは買い物に終わったし。

次のデートは初詣。

その次はバレンタインデーに食事に誘われ、花束を渡したら微妙な顔をされたよね。

「何をしていいのか、デートってよく解んない」

「まぁ……食事したり、映画見たりが普通のデートじゃないのか?」

「映画かぁ~……最近は見ないよね」

これみたい!って言うのがそもそも無いし。

見たいかもな……って思っていた映画は、いつの間にか終わっていたり。

「じゃ、今回は敬介に付き合うよ。写真撮りに行こう」

名案!

最近はずっと私につきあってばかりだし、逆に申し訳ないし。
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