小路に咲いた小さな花
「……うーん。でも、楽しくないと思うんだけど」

「撮影したいのはどこ? 場所によってはピクニックしよ?」

暖かくなってきたし、いい時期だと思うの。

「ピクニック……」

その言葉に笑顔が見えた。

「お弁当作るよー」

……まぁ、桜の時期は“会社の付き合い”の名の元に、見に行けなかったし。

本当は夜桜が見たかった。

桜ってあっという間に咲いて、あっという間に散ってしまうから、結局は映画と同じでいつの間にか時期が過ぎてしまう。

だけど、それが過ぎればポカポカ陽気になるから、季節の中では一番好きな季節でもあるんだよね。

灰色から土色に変わって、土色から若草色に変わって……それから深緑の季節になって。

「じゃ、おにぎりがいいなぁ。具なしでもいいから、おにぎりがいい」

「敬介は昔から具なしが好きだよね」

「梅干しでもOK。最近は食べられる」

そんな感じで次回デートの約束をしてから、敬介は古本屋さんに帰っていった。

「…………」

……と、言うかさ。

付き合い始めてしばらく経つわけだけど、敬介。

どうして貴方はこのシチュエーションでキスすらしないの!

今日だって、親父様が出掛けるの知っててカレーライスを作ったわよ!

確かに、家でコトに及ぶのは勘弁して欲しいけど、キスすらしないってどういうコトなの!?

言うことは……言葉だけは際どいくせに、どーして貴方は手をだしてこないのよ!

私から言わないとしてくれないとか?

そういうこと?

そういうことは、男性からリードしてくれるものじゃないの?

どうなの?

それとも、やっぱり私じゃそういう感じにならない……とか?

解らない……けど。

考えてても仕方がないし。

明日はおにぎりと、卵焼きを作ろうかな。

たくあんも食べたい。

それより何を着ていこう。

ピクニック……ピクニックは、スカート?

いや、デニムパンツ?

遠足? 遠足みたいな格好でいい?

遠足で可愛い格好なんて想像つかない。

あ、そういえば玉子あったかな。

冷蔵庫を見ながら、溜め息をついた。

どうして、キスすらしてくれないんだろう。

そんな事を考えながら……
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