小路に咲いた小さな花
そう言えば覚悟しろとか言われていた。

覚悟。覚悟を決めなきゃだよね。

うん。

付き合っているのだし。

恋人同士になったのだし。

恋人なんて。

……めちゃめちゃ照れる響きだけど。

どちらかと言うと“ウキャー”ってなるけど。

これはもちろん二人きりで、と言う意味だよね。

解ってる。理解してる。

うん。それが普通よ。

お互い“良い歳”なんだし、敬介なんて今まで何人かと“そういう事”をしてきたんだろうし。

でもさ。

学生時代をぷくぷくプニプニで過ごしてきた私。

そういった経験値は皆無なんです。

だいたい男友達すらいなかったし、友達の体験談を聞いてはいるけど、それによると統計では……

20代過ぎての初めてって、重い……とか、よく聞くよね。

男の人にとっては重いとか、逆に嬉しいとか。

人によって違うとはきいているけれども。

でも、やっぱり重いって言うのが大半占めていたと思うの。

でも、今更、他の人に……って訳にもいかないし。

それをやったら単なる浮気だし。

知ってる男の人なんて、敬介の友達か商店街の男の子たちだけで。

言語道断って言うでしょそれ。

絶対にしちゃいけないでしょ、そんなこと。

その後をどうするのよ、その後を!

「彩菜……」

「はい!」

「百面相は面白いけど、荷物貸して」

やたらと冷静に言われて、我に返った。

「ご、ごめん」

「いや。いろんな事を考えたみたいだな?」

うん。いろんなこと考えちゃったよ。

だってキスすらまだなのに、いきなりお泊まりとか。

もう、本当にいろんなこと考えちゃったんですよ。

「大丈夫。解ってるから」

ポンポンと頭に触れられて、キッと睨み付けた。

「子供扱いは嫌」

「それも解ってる。だから早く車に乗る」

ビシッと言われて、スタスタと助手席のドアを開け、座るとシートベルトをつける。

敬介は運転席側から一部始終を冷静に確認して、それから苦笑した。

「言っておくけど」

「うん?」

「男の車に乗る時も気を付けるように。何されても文句も言えないぞ」

「どうして座ってから言うのかな?」

「そんなもん。逃げられないために決まってる」

ブツブツ言いながら敬介は座って、シートベルトをかけた。

「逃げないわよ。敬介は、まだ私のことを女の子扱いしてる」

「……彩菜、すぐ挙動不審になるし」

「なるよ。キスもないのに、いきなり泊まりとか言われたら」

「まぁ……」

エンジンをかけ、何か思い付いたように考えている風の敬介を見る。

また、一人で何か考えてる。

「あー……そうか。そうだな」

ボソボソ聞こえるのは、心の声だろうか?

また一人で納得してる?

「勝手に納得しないでくれない?」

「あ。いや……さすがに無理だろー」

は?

「何が?」

脈略が無さすぎない?

え。何、キスが無理?

キスも無理なら泊まりはもっと無理しょうよ!

「ああ。勘違いしたな?」

ちらっと目があって、眉を寄せる。

「今の返事の、どこに勘違いの要素があったのよ! いつもいってるでしょう! 言葉が足りない!」

「彩菜も人の事は言えない。まぁ、昨日の状態でキスは無理。止める自信は俺には全くない」

「…………?」

なに、何をどう止める?

「ほらな。解ってないし」

車を出しながら、不機嫌そうに言われてもさ。

解らないものは解らないから、仕方が……

「キスしたら先に進みたくなるし。密室内はマズイだろうが。それに彩菜は場所とか気にしそう」

先に……

そうか。先に進みたくなるんだ。

そ、そういうものか。
< 54 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop