小路に咲いた小さな花
「俺だってバカじゃないからな。井ノ原さんいないのにうちご飯とか、彩菜も考えたんだろうけど、なんせ詰めが甘い」

み、見透かされてる!

「か、帰り際にすればいいじゃない」

そういうシチュエーションも、乙女的にはありだよ!

「帰り際に玄関先で? そこで止まるのは、中に親がいると思ってる時だけだっつーの。いないの知ってりゃ、また中に戻ればいいだけなの」

「…………」

そこまでは考えなかったわー。

でも、そうか。

「敬介は、キス……したくないのかと思った」

「そんなわけないだろーが。ワザワザお膳立てしてくれてんのに、見過ごさなきゃならなかったんだから。こっちの身にも……」

言いかけて、敬介は驚いた顔になった。

「そうか。彩菜はキスしたかったんだ?」

聞くな────────!!

「そうかそうか。だからさっきも不満そうにするわけだ」

や。分析もよして!

「それは嬉しいな。どうしようか考えてたし」

「敬介って、計画魔だよね」

「そりゃそうだよ。もうすっかり企画室の人間だし」

企画……企画ねぇ?

「企画って、なんかよく解らないけど、どんな仕事?」

「営業が売る商品とかサービスを作って、どんな風に売るかを考える仕事」

うん。よく解らない。

「俺は企画開発に近いけど……情報分析なら磯村の方が上かな~。俺は状況分析が苦手だから」

「華子さんの旦那様ね。何だかお互いに大変だとか言われた記憶がある」

「うん。あの時点でその発言なら恐いけど。あいつは全部は教えちゃくれないし」

「ふーん」

「興味なさそう」

「人の旦那様に興味あっても……」

ねえ?

「ああ。それもそうか。じゃ、俺には興味ある?」

「…………」

「口開きすぎだから」

パクンと閉じて睨み付けたらクスクス笑われた。

途中、お茶を買う為にコンビニに寄って、今週にあった商店街の面白いことを言い合いながらも、車はどんどん山の方に向かってる。

「どこに行くの? どこの公園?」

「名前は知らない。まぁ、穴場だな」

「穴場……?」

「たまーに、写真仲間とメールしてると、穴場情報くれるんだよね」

「写真仲間さん?」

「あー……うん。ネットでコミュニティサイトがあるんだよ。プロもいて驚くけど」

「へぇ……」

敬介は何気に交遊関係広いよね。

……私は疎遠になっちゃった学生時代の友達くらいだし。

「友達増やしたい~」

「……出不精直す事だな」

そうします。

でも、出掛けたからと言って、友達が出来るわけでもないし。

道端でいきなり“友達になりませんか?”なんて、声をかけるわけにもいかない。

どこの宗教の人かと思われそう。

私なら確実に思うよね。

間違いなく変な人確定するよね。

だいたい、私は“営業”外れれば、口を開かない事の方が多いし。

あれ?

もしかして私は無口な人?

いや、話しかけられれば話をするよ?

でも、話しかけられなきゃ話をしないかも?

私はもしかして、暗い人?

友達も少ないし、少ないって言うか、連絡する友達すらいない寂しい人?

嫌だ、どうしよう。

「……彩菜?」

「う……?」

「何だか可愛いけど、着いたよ?」

「え。あ……」

周りを見渡すとどこかの駐車スペース。

目の前にはタンポポが咲き乱れる、自然一杯の原っぱ。

そして……

「桜!」

緑の中に一本。

今まさにハラハラと花が落ちて、満開の桜。

「山の桜は遅咲きだから。しかも一本だから、地元の人しか知らない穴場みたいだよ」

敬介はそう言って、私を見た。

「桜は嫌いじゃ……」

「大好き!」

「……そ、そう。それは良かった」

どこか引いたような気がしたけど、車から降りると山特有の暖かいけれど、どこか冷たい空気を思いきり吸い込む。
< 55 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop