小路に咲いた小さな花
「解ってないようだから言うけど、彩菜はうちの母親に勝手に花嫁修業させられてたんだよ」

へ?

「それに、俺が彩菜に近づく男に気を付けるように、井ノ原さんに言われたのは小6の頃」

はい?

「そう考えると、親にコントロールされてるみたいでむかつくけど、彩菜は俺を好きだよね?」

「…………っ」

い、今、それ……聞く?

「しかも、俺の想像が正しければ、幼稚園児の頃からだよな?」

し、知らない。

幼稚園児って言うか。

気がついたのは、敬介が、彼女と歩いているのを見た時……だけど。

「それまで確か、ちゃんとバレンタインにはチョコをくれてたんだよ。まあ……全部、井ノ原さんが用意してた みたいだけど」

そうだね。

中学にあがるまでは、親父様がチョコを配ってこいと用意してくれていたけど……

数えちゃったの?

と、言うか数えなくてもいいじゃないか。

めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど、とっても、かなり恥ずかしんですけど!

敬介はバレンタインにこだわりすぎじゃない?

「大丈夫だよ。引かないから。つーか……俺の方がきっと引かれるから」

「どういう事? 私が敬介に引くの?」

「うん。引くと思う。生まれた瞬間から好きだったとか言われたら、普通は引くでしょ?」

そう言って、もくもくとおにぎりを食べる敬介。

「こればかりは、コントロールされない事柄だよな」

しみじみ言っているけど、その言葉の意味が解らないけど。

何だか頭がパンクしそうですけど。

頭を使うって、エネルギーが必要。

必要なら食べようか。

アルミホイルを剥がして、おにぎりにかぶりつくと無言でもぐもぐと食べ始めた。

食べながら、桜を見上げる。

なんて言えばいいか。

……引く、とか、引かないとか。

私が生まれた瞬間からでしょ。

つまりは敬介が8歳かそこらでしょ?

まぁ、普通に考えたら引くけど、引くんだろうけど。

「敬介。中学の頃に彼女いたじゃないの」

「うん。いたね」

「可愛くて。細くって。ひまわりみたいに明るくて」

「それはどうだったかな。食の細い子だった記憶はあるけど」

「それに高校の時にもいた。数えきれないくらいいた。百合、鈴蘭、かすみ草……チューリップみたいな人やパンジーみたいな人も」

「彩菜は女の子の事を花に例えるんだな」

「大学生時代は、バラもいたし、牡丹みたいな……」

「俺も男なんだよ」

だって……
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