小路に咲いた小さな花
そう。敬ちゃんは天然だ。

私たちの成長を見守ってくれている商店街の皆が言うから、間違いない。

その皆様いわく、天然の小悪魔。

深い意味も意図もなく、さらっとケロッとニコニコ恥ずかしい言葉を思い付くままを言葉にする。

でも深い意図はないから、その時にドキッとしても、それだけのお話で終わってしまう。

確かに喜美ちゃんがいうように、敬ちゃんはなかなかいい線いっていると思うけど、彼女がいないのがいい証拠……だと思う。

意味がないから続かない。

それが敬ちゃんだ。

ぷにぷにだろうが、大食いだろうが、かわいいだろうが、思い付くまま気の向くままに言う。

たまに喧嘩になるけど、そんな敬ちゃんは嫌いじゃない。

うん。幼馴染みとして。

だって、ねえ。

思い付くままに言葉を紡ぐ敬ちゃんは、ある意味で正直者だ。

すこしでも好意を持ってる女子の前で“彼女欲しい~”などとは呟かないでしょ。

すこしでも好意があれば“彼女にならない?”くらいは言うだろう。

その確信がある。

自信もある。

あるから……好きだなんて言えない。

だいたい、好きだと気づいたのはかなり昔の話。

敬ちゃんに初カノが出来て、商店街を手を繋いで歩いていた時。

敬ちゃんは中学の制服を着て、私はランドセルの小学生で……

その段階でどうにかなるとは思えなかったし。

うん。ロリコンと言う言葉の意味を知ったのは随分後のことだけど、小学生が対象外なのには気づいていた。

中学生になっても、高校生になっても、敬ちゃんからはニコニコ“ぷにぷに”言われ続けていたけどね。

思春期を過ぎて、20歳を過ぎて、それなりにぷにぷにも減って、でもぷにぷに言われるけどね!

お茶を飲み終わり、支払っていると敬ちゃんが戻ってきた。

「あ。奈美さん俺もお会計~。彩菜帰るなら一緒に帰ろ?」

「え。どうして?」

「だって、夜だし」

夜だけど、勝手知ったる商店街だよ?

確かにこの時間帯はカラオケ喫茶がカラオケスナックになって、角のお店でも赤提灯が下がるけど。

「私、コンビニ寄るよ?」

「ちょうどいいや、俺も買い物」

「そうなの?」

「うん。そうなの」

別に断る理由もないけど、一緒に帰る理由もないなぁ。

そんな風に考えながら、コートを着て定食屋を出た。

「さっむいねえ」

敬ちゃんは首を竦めて、ポケットに手をいれている。

「今年は寒いよね?」

「飲んで帰る?」

「……明日飲むからいいよ」

シャッターが閉まっている揚げ物屋さん、まだ電気がついてる本屋さん。

見るともなしに見ながら、なんとなく無言になってコンビニまでの道を歩いた。

そう言えば、敬ちゃんから飲みに誘われたのなんて初めてかも。
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