小路に咲いた小さな花
皆、大人だ。

商店街には絶対にいないタイプの大人の人。

皆、スーツで何だか格好いい大人してる~。

「じゃ、集まったし行きましょうか」

「あ、はい」

なんかもう、喜美ちゃんが言っていた事がよく解る。

商店街で、スーツ着て歩いている人は希だし。

なんて言うか、新鮮だわ。

「楽しそうだね。彩菜」

皆さんについて行こうと歩き始めると、隣に敬ちゃんが来た。

「うん。目の保養って、こんな感じなんだろうなって思ったー」

「目の保養?」

黒薔薇とカラーをイメージ出来る人なんてそうそういないよー。

商店街のお姉さまたちは、すっぴんに髪も結んでるか短いかだけだし。

若い子でも、普段着長靴が普通だし。

あんなキラキラしてる人は少ないよね~。

「そうだね。目の保養になる。最初、俺も解らなかったし」

「え?」

「いつもポニーテールにしてるから。下ろしてオシャレしたんだね」

「あ。うん……」

喜美ちゃんが色々と……

「本当、いつの間に女性になったんだろう」

「…………」

ちらりと敬ちゃんを見ると、ニコニコしてる。

でたよ。天然タラシ。

「発言が変態だよ。敬ちゃん」

「え? そう?」

「うん。表では控えた方がいいよ」

「……そうか。うん。解った」

本当に解っているのか、解らないけれど、敬ちゃんはニコニコ頷いた。

これを狙って言えるようになれば、モテるんだろうに。

「そーゆーセリフは、女の人に言えばいいじゃない」

「え。男にはさすがに男性になったとは言わないよ」

「違う違う。ちゃんと考えて、然るべき時に、然るべき場所で言うってこと! 敬ちゃんは思い付くまま言うから彼女できないんでしょ!」

「えー。それ言ったら彩菜だって、たまにきついこと言うから、彼氏出来ないんだよ」

「うるさいなー。敬ちゃんには関係ないでしょ」

「そんなことない。彩菜に彼氏が出来たら査定するつもりだから。ちゃんと見せにくるんだよ?」

「え。なんで敬ちゃんに見せないといけないの。親父様に見せるならともかく、どーして敬ちゃんに!」

「井ノ原さんに頼まれたんだもんね。彩菜の彼氏の見聞よろしくって。だいたい、井ノ原さんはいつもいないじゃないか」

「だからって、敬ちゃんは他人よ他人!」

「知ってるよそんなこと」

「あのねー……」

「お前ら。喧嘩ならせめて実家でやれや」

超重低音の低い声と、仁王立ちしている磯村さん。

その後ろに苦笑している皆さんを眺め、それから敬ちゃんと視線を合わせて……。

うん。往来でやることじゃないね。

「すみませんでした」

頭を下げたら、磯村さんは肩を竦めて伊原さんの隣を歩き始める。

「……磯村さんて恐い人?」

ポソポソ聞くと、敬ちゃんは難しい顔で首を傾げる。

「口は悪いけど、滅多に本気で怒らないよ。磯村が本気で怒ると問答無用で流血沙汰だから」

りゅ……流血沙汰。

「恐い人じゃないかー」

「大丈夫だよ。たぶん今は伊原さん以外はその他大勢に分類されてるから」

……全然意味がわからないよー?
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