不幸ネット
 美樹は私に口パクで何かをつぶやきながら、困ったような顔で軽くウインクをするとPC画面に視線を戻した。

「瀬野さん。ちょっと」

「はい」

 こちらを振り返る事もなく、背中越しに声が飛んでくる。

 私は重い腰を悟られないように素早く立ち上がり、上沼の正面へと移動する。

「何……でしょうか?」

 恐る恐る問いかける。

「何でしょうか? じゃないわよ。これ、また間違えてる。この間も言ったわよね? これは合算しちゃ駄目なの」

 手にした書類をトン、とデスクの右側に置きながら、PC画面に視線を貼り付けたままで上沼が言った。

 私は真逆を向いた書類に素早く目を通しながら問題箇所を探す。
< 16 / 228 >

この作品をシェア

pagetop