モバイバル・コード
 雷也は椅子に深く寄りかかって、頭の後ろで両手を組んだ。


「兄貴なんてさ、漫画だよ、漫画。存在自体が漫画の主人公。紆余曲折(うよきょくせつ)もないつまらない漫画だけど」


 慶兄に対する気持ちは分かるが、オレはどうしても聞きたい。


「なぁ、慶兄さ……テレビ出るのか?」


 兄貴の話をするのは、最近ではご法度になっている。


 それくらいわかっている。だけど『テレビに出る』と聞いてオレの好奇心は隠せない。


 雷也はちらっとオレに目線を向けた。


 オレの携帯の電話帳を示した絵……“アイコン”だかなんだかに触わり、一番目に自分の名前を入れた。
 

 そして大きなあくびをしながら顔を机に伏せ、無言で携帯を持つ手を突き伸ばしてきた。


 オレは受け取って電話帳を確認する素振り。どうやって確認するんだっけ。


「なぁ、そんな聞いたくらいで不機嫌になるなよ?」


 雷也は顔を少し起こして、手の甲にアゴを載せた。


「……昨日もランカー戦で朝6時まで起きててさ、眠いんだよ……。出るよ。今日の20時、国営放送で」


「本当なのか? 国営ってまた凄い話だな」


「兄貴は政府が運営している携帯ゲーム会社の“会長”として出るよ。今や全国に普及した――『JaCoPa』(ジャコパ)の会長として」


 そうつぶやくと、けだるそうに顔を机に伏した。
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