モバイバル・コード
 余裕ぶっている場合ではない、屋上は最上階の通路から別の階段を登っていくらしいな。


──『バンッ』


 高所の秋風が、開けたばかりのドアを一気に開閉させた。


 屋上にはフェンスが設置されていて、フェンス越しだと周りの屋上を覗くことは出来なかった。 


「よいっしょ」

 
 オレは高い所は得意だ。バカと煙はお高い所がお好きというのは本当だと思う。


「見えない…な……」


 日差しがまぶしい。


 オレは左手でフェンスに捕まりながら、右手でシェードを作って辺りを見回す。


 まず南側から。南と分かるのは、同時に立ち上げている『コンパス』のアプリのおかげだ。


 同時に三つも使うことなんて今後無いのではないだろうか。


 屋上を一周グルリと廻った。ずっと眺めているが、一向にそれらしきものがない。


 いや、違う。見えないんだ。


 このビルが高すぎて見えない。隣のビルの方が少し低いな……。


 何メートルくらい、このビルと高さが違うのだろうか。


 答えを考えたが、オレは直ぐに考えることをやめた。


──素人には分からない


 人間は高さに関しては、高く見積もるように設計されている。


 これは本で読んだ知識だった。


 下から見たらなんてことない高さなのに上から見るととんでもなく高く見える。


 本能が脳に危険だと命じているからだ。


 オレはこの付近では一番高い、この『Aビル』を降りた。
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