モバイバル・コード
──『シャーッ』



 丁度、神様が『獲物』を運んでくれた。


 まるでハヤブサのようにやってくる黄色いマウンテンバイク。今しかない。



「おい、おいおいあんた、あんた頼む、このマウンテンバイク、オレに今すぐ譲ってくれ!!」


「はぁ…? お前いきなり何言って………それ……マジで!? いいよいいいよ!! ほら! やるよ!!」



 アゴヒゲが目立つ若い男が、その阿修羅(あしゅら)の面を仏陀(ぶっだ)の面へと変えた。


 流石は国内最強の印籠だ。その効果は凄まじく大半の人間の怒りを抑えてくれる。


 オレはこんな風に無駄遣いをして将来は大丈夫なのか?


 コンビニで買い物して、ホテルで使ったりしたが90万近くはあるだろう。


 オレは羽のように軽いペダルで『Aビル』まで向かう。


 これで『5分』は短縮出来る……よし、クリア出来るぞ。


 人生で一番早い立ち漕ぎをして風を切った。


 自転車のスタンドも立てずにビルの前に寝かせて、すぐにエレベーターホールに来た。



──『ポンッ』


 
 丁度エレベーターが来た、乗り込むしか……。


 ……10人はエレベーターの前に居る。待て、待ってくれ。


 このサイズのビルだ、おそらくバラバラにボタンを押す。その度に階に止まる。


 オレが死ぬとかなんとか喚(わめ)いた所で、職務質問行きにされるのは間違いない。


「ちょっと待ってください、待ってください!! 急いでいるんです、これでオレだけ乗せてください!!」



──『バサッ』
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