モバイバル・コード
「ま、とんでもなく頭がいいんですよ。僕の兄貴は、ね。」


 雷也はメガネを外して携帯を見つめて少しだけ微笑んだ。
 

 オレの胸が少し高鳴るのが分かる。


「とんでもなくカッコいいの間違いだろ、雷也。慶兄に会いたいな!今日はバイトだけど早上がりさせてもらうわ。慶兄の晴れ舞台、オレは絶対に見届けたい」


 しかし、慶兄は……もはや別世界の住人のようだ。


 一人っ子のオレにとって、小さい頃から中学卒業まで可愛がってもらった。


 本当の兄貴のような存在だ。


 雷也の慶兄に対するコンプレックスがある事は百も承知。


 だけど、それはそれ、これはこれだとオレは思ってる。


 思い切ってもう一つの禁句を雷也に問い合わせてみようか。


「なぁ……番号を聞いてもいいか?ほら、オレは携帯を持ってもお前と母さんしか電話帳に入らないし……。慶兄の携帯の番号を……」


 オレの目をじっと見つめていた雷也が、またオレの後ろへ視線をずらした。
 


 今度はオレも気配を感じた。



 いや、足音で分かった。



『コツコツ』



 少し高いローファーのヒール音が聞こえてくる



 絶対に学校の規格じゃない。
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