モバイバル・コード
「ちょっーーと待ったぁ!! 龍ちゃん、それは無いでしょ!? 二人しか入らないってなによ! 携帯買ったってホント!? ねぇ、見せて見せて」



 オレから携帯を奪い上げる時に舞ったコロンの香りが、甘くこの場を包む。
 

 鮮やかに色づくそのテンション高めのその声が、不機嫌になりかけていた雷也の心を落ち着かせたようにも見えた。


 いや、二人とも突然の『彼女』の行動に面食らっていたという方が正しいのかもしれないな。


 『彼女』は、ついでにオレが机に置いていた食べかけのあんパンを食べる。


 ガキの頃から変わらないあつかましい行動には、今は慣れてしまった。そんな自分が、少し滑稽に思えた。



「っておい、パンは取るなパンは!」


「……うん、美味しい! だって、あたしさっきまで部室に行っててお昼食べる時間無かったんだよ。いいじゃん、ケチ」


「ケチじゃねぇっつーの、太るぞ」


「うるさいのっ! あっー! ホントに雷也とおばさんしか入ってないじゃん!

しかもこの携帯って最新の“5Sモデル”だよね!? 新品でも10万はするんだよっ! 龍ちゃんってそんなにお金あったの?」


「10万っ!?」


 加藤さん……絶対嘘ついただろう……。


 彼女はいつもオレ達にはまくし立てるように話す。


 他の人と話す時はおしとやかな『レディ』を演じるくせに。


「無い無い、生活だけで手一杯だって。なぁ、どこから話を盗み聞きしてたんだ?」
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