モバイバル・コード
「大丈夫ですよ、店長」

 
 店長と呼ばれた坊主頭のおじさんが、軽く咳をする。


「ごほん、せーの」


「よっちゃんへ、ようこそ!」


 店員の活きの良い合唱も、この店の売りなのだ。


「えっなんか凄い楽しそうなお店だね、あたしこういう所好き。ねぇ、龍ちゃんはなんでこんな所知ってるの?」


「ああ、母さんが入院する前に御徒町で買い物に来てさ。その時に寄ったんだ」


「龍ちゃん意外とグルメだから。安い物食べてばかりだと思われがちだけど、行く時は高いものとか食べに行くんだよね。初バイトの給料でステーキ食べに行ったんだよ。愛梨にはナイショって事で」


 2階の席につくなり、雷也は笑顔で話しはじめた。


「とりあえず、最悪な事が今から待ってるんだから。景気づけに焼き鳥でも食べていこうぜ。お姉さん、盛り合わせ二つと、本日のお刺身一つ。オレはコーラで。愛梨と雷也は?」


 程なくして店員さんが料理を運んできた。このお店の店員さんは、頭にハチマキを巻いている。

 
「なぁ、オレ達も、トレードマークにハチマキでも巻くか、ってうまい、うまいなこれ」


「龍ちゃん食べながら話さないでよ、汚いよ……って、凄く美味しい!」


「それいいね、ハチマキはアレだけどなんかないかな。お揃いの携帯ストラップとか、どう?」


「えっ!それ可愛いね、あたしは賛成」


「ハイ、採用、また一発で決まったな。この時間に売ってるお店あるのか?」


 雷也はたこの刺身に舌鼓(したつづみ)を打っていた。もうこの3日くらい、贅の限りを尽くしている気がする。


「そうだね、じゃあ勝ったら明日のお昼でも買いに行こうよ。アメ横なら面白いお店いっぱいあるし」


「まぁそうだな。しかし『モバイバル』からのメッセージおっそいなぁ」


 愛梨は携帯を見て、何かに気づいたようだ。
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