モバイバル・コード
「仕方ないなぁ、ちょっとだけだよ?

いやぁ、簡単だったよ。愛梨ちゃん。だって考えてよ。まぁ1週目に気づくよね、席を当てるゲームだって。

電車も普通の山手線じゃないから『窓』まで開く。となると、まぁ3人とも考えた通り、すれ違う瞬間に何かするんじゃないかって思ったよ。ボクも」



 なるほど、そこまでの発想は一緒なわけだ。ユウマは得意げに続けた。



「ボクは龍一クンと同じ内回りに乗ってたんだけど、上野で止まった瞬間に分かったさ。ここで『何かするんだ』って。

さて問題、何をしたでしょう」


 分かったら苦労しないっつーの。雷也がオレの代わりに演技をしてくれる。



「いやぁ、ホント、全然分からないよ。僕達は普通に何分止まるのか、ばかり考えていたから…。

本当に天才なんだね、僕じゃ思い浮かばないよ」



 アメリカ人顔負けのオーバーリアクションなんて、今後見れないかもしれない雷也の貴重なショットだ。


 ユウマの天狗っぷりに、愛梨がトドメを差す。


「あ、分かった……正解しても間違えても、あたしにご褒美くれるのかな…? ユウマくんって優しいんだね……?」


 愛梨は右斜め下を見てモジモジしだした。将来は女優にでもなった方が良さそうだ。


「エヘヘ、まぁね。動画撮影の『スローモーション機能』については1週目にわかってたから、ナツキさんにネタばらしはしておいたんだよ。

明るい上野のホームで撮影すればいいはずだからって。ボクは2週で終わらせられるようにするからとも伝えた。

それで、上野駅のホームドアが開いて周りを見渡した時、閃いた」


 ユウマはそう話すと、大きく深呼吸をした。


 すでに朝日が昇りはじめ、幼さが残る顔を照らし出す。


「もう夜明けだね……。ボクは気づいたよ、山手線は『環状線』。どうせもう一度ここに『戻ってくる』。

じゃあ……『置いておこう』って」
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