モバイバル・コード
 9月の小雨がオレを少しだけ感傷的な気持ちにさせた。


 だが、浸っている時間はない。貧乏なんだから稼がないとな。


「よいっしょ」


 2階へと上がり洋間の隅にダンボールを置く。


 すでに洋間にはぎっしりのダンボールが詰められていた。


 オレが肩をさすりながら部屋を出ると、廊下の突きあたりに同じ歳くらいの男がいた。


 さっきからジュースに携帯ゲームでくつろいでいる。


 家庭環境が違うとこうも違うものかと毎度の事ながら思ってしまうんだ。


 いいや、仕事に集中しよ。


 階段から降りてくると玄関から加藤さんの声が聞こえた。


「おーい、休憩にするぞ」


 オレが玄関を出てトラックに向かうと、目の前に缶が飛んできた。


「ほれ、飲め」


 コンテナの手前に座る加藤さんが、オレに缶コーヒーを投げた。
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