モバイバル・コード
 じゃあ、オレも携帯使えるギャップでも見せたら葵もドッキリするのかな。無理だろうけど。


「愛梨、帰るぞ。3時間は寝ないと」


「うんっ!」


 神田の雑居ビルを抜けて、裏通りからホテルを目指す。蛍光灯の色は、白色ではなく暖色だ。辺りをオレンジ色の光が照らすが、誰も暖かみのあるこの道路を歩く気配は無い。

 
 神田独特の空気。表通りは人が多いのに。まるで、オレ達だけが世間から取り残されたようだ。


 ホテルに着き、部屋に入る。雷也は携帯を操作していた。画面を見たまま、オレ達に小さく話しかける。


「……おかえり。さっきはごめん、僕の言い方が悪かったから愛梨に勘違いさせちゃったみたい」


「ううん、あたしも悪いよ……雷也って、たまに隠し事するじゃん。嘘はつかないけど、隠し事はするでしょ?」


 雷也は携帯をテーブルの上に置いて、愛梨の目をジッと見る。


「……そうだね。隠し事はするかな。必要以上の情報って、混乱させる事があるから。龍ちゃんが言った通りだよ。油断させない意味が強かった。死なないから適当にやっていいじゃん、とかもしそうなったらマズいと思って」


 再び携帯を取り上げて、誰かにメッセージを送っているようだ。


 オレ達も定位置で座る。ソファと雷也の対面に。
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