モバイバル・コード
「今日は9月とは思えないくらい寒いな。しっかし龍一君は若いのによく働くね。

最近の若いもんはすぐにサボるし、休憩の時は携帯ばかり見ててんでおじさんと話もしやしない。希薄な人間ばかりだよ」


 そうぼやく加藤さんの言葉に、心当たりがない人間は……絶対にいないだろう。


 現代を生きる人間には必須アイテムともいえる────『携帯電話』


 高校に進学してもオレは持っていなかった。


「加藤さん。自分、携帯電話は持ってないんです。金も無いですし興味も無いです」



──嘘2割、本音8割



 もちろん、金が無いのは事実だった。


 だが……興味が全く無いのは嘘だ。


 オレも家が裕福ならポテトチップスを食べて、携帯でもイジりながら寝ていたい。


 だけど、家の事情があるから自分の気持ちを押し殺している。

 
 オレの親父は10年前、オレが6つの時に蒸発した。


 母さんが言うには親父の浮気だと言っていたが、金銭的なトラブルを抱えていたことは幼いオレにも分かっていた。


 だって小さい頃からゲーム一つ買ってもらえなかったから。


 よくある家庭の事情だった。
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