モバイバル・コード
 シフトレバーをドライブに戻し、慶兄が運転席の窓を開けた。


 少し長めの髪が風に揺れている。


 なんていうか、絵になるよな……この人は。


 男のオレでも思う。この人とドライブをしたら間違いなく惚れる。


 褐色の肌に目立つ大きな瞳。


 刹那(せつな)に鈍い、だけど花火のようにキラキラと煌めく。


 慶兄は、掛け値無しにカッコいい。


 纏(まと)うオーラが少し違うんだ。


 オレもまだ生まれて16年しか経っていないし社会に出ていないから分からない。


 だけど、確信する。


 後にも先にもこの人を超える人は現れないって。


「…どうして? オレだけ?」


「仕事の話だ」


──嘘9割、本音1割


 嘘だ。


 何かの『シナリオ』を破り捨てて、この人はオレを呼んでいる。
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