モバイバル・コード
 オレの目の前に、急に缶が飛んできた。


 夜目が効かなくて落とすと慶兄は優しく微笑んだ。


「なにやってんだ、行くぞ」


 缶コーヒーを拾い上げて慶兄とベンチに座った。


 この感覚、凄く懐かしいな。


 秋の星空を肴にコーヒーを飲んだ。


 乾いた風とコーヒーの匂いがオレを落ち着かせる。


 そのまま……無言で10分くらいが過ぎた。


 本当に信頼しあっている男同士なら言葉なんて要らない。

 
 そこに居るだけで会話が成立するって、歴史の本で読んだことがある。


 慶兄が携帯灰皿に2本目のタバコの吸殻を入れた。


 青いベンチの背もたれに深く寄りかかって、左手を背もたれの後ろにかけた。


 右手で深く、タバコを吸ったのは……何度目の事だろう。


「……雷也と愛梨、よろしく頼むわ」


「えっ……?」


 一拍置いてからオレは答えた。


「いや、よろしく頼むって。なっ」


 はにかむと白い歯が目立つ。


 なぜか切なさで胸が軋んだ。
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