モバイバル・コード
 10月中旬の屋上は晴天だったが、龍一は少しだけ肌寒さを感じた。冬の匂いが本格的になるに連れて、寒さが増してくる。


 ブレザーのポケットに手を入れながら、龍一はいつもの定位置、中央のベンチに座る。今日は先客がいた。


「葵ちゃんの護衛、お疲れ様。連日の大人気から、『葵を守るアイディアを、考える』って言ってたけど、浮かんだの?」
 

「とびっきりのヤツな。誰かさんの修行にもなる、最高のアイディアだ」


 淡い栗毛色の髪が、風にそよぐ。右手で前髪をかきわけ、そっと耳へかけた。


 彼女は、ゆっくりと首を動かし、隣に座る龍一を見つめた。


「ふぅん…そっか。『携帯』でしょ?その話」


 龍一はふいに遠くを見て、瞳を閉じた。男にしては少し長いまつげが、いつもチャームポイントだと少女は思っている。


「オレは、携帯を二度と使わない。だけど、雷也や愛梨、葵は持っていた方が良いって話になっただろ?

時代が、また『変わる』時に必要になる。竜二さんの言葉の意味が、少しずつ分かって来た。

だから、何かあった時の為に。まっ、二度とあんな面倒な事は御免だけどな。愛梨も同じだろ?」


 ふふっと笑い、愛梨は龍一を見つめる。
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