モバイバル・コード
 雷也と愛梨が近くの椅子に座って話の続きをしているようだ。


 オレは机に突っ伏し不動のまま……盗み聞きを開始した。


「……って言われたんだ。珍しく電話がかかってきてさ」



 雷也の声色が、少しだけ強張(こわば)っている気がした。


「ただ龍ちゃんの為を思って手伝って欲しいってことじゃないのかな? 1000万をぽんと受取るのは誰だって気が引けるよね」

 

 愛梨の声は目を閉じて声だけ聞くと、本当に透き通るような声。カラオケに行った事は1度か2度くらいだけど、歌も上手なんだ。


 声が良い女はモテるって言うけど……なんか認めたくない気分。


「慶二兄さんは龍ちゃんが賞金獲得出来るようにあたし達に手伝って欲しいって事なんでしょ? 賞金っていう形なら、誰にも気兼ねなく受取り出来るもんね」


 なんだ、オレの話か。


「夜中の2時に、急に電話がかかってきたんだ。凄い真剣な口調だったよ。

『絶対に龍一の力になってくれ』って。まるで僕を脅してるようだった」


「雷也は考えすぎなんだよ……」


「仲は良くないと言っても、僕と兄さんは兄弟だよ? 口調で分かるよ」


「龍ちゃんのことを考えて雷也にお願いしてるだけだよ。なんだかんだ言って慶二兄さんも雷也のこと認めてるから」



 なんだか話が複雑だな……。
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