幻恋
高校はそれぞれ他校を受験していたから、もう会う事は無いと思っていた。
でも…
「何で……
ここにいるのよ」
私は寧人の事を軽く睨みながら、軽蔑した表情でそう言った。
寧人はドキッとしたような表情で私を見つめ、少し笑顔にはなっているものの、完全に表情がひきつっているように見えた。
「お、お前こそ、何でここにいんだよ」
動揺したような声で言った寧人。
そんなに動揺したって、私は許すつもりは無いんだから。
「わ、私は、吹奏楽部の皆の様子を見に来ただけだよ!」
「お、俺だって、ちょっと陸上部の様子を見に寄ってみただけだし!」
寧人が慌てたように言った。
…寧人は、中学の時陸上部に所属していて、全国大会に出る程の、かなりの経験者で本レギュラーの選手だった。
まぁ、別れた今となってはそんなのどうでも良いけど。
私は固まっている寧人に背を向け、スタスタと歩いて行く。
「あ… おい……」
寧人がすぐに呼び止めたけど、私は構う事無く黙々と歩いて行き、ついにはダッと走り出した。
「うぅ…… くっ………」
あんな態度を取っているけど、本当は凄く辛い。