幻恋
未来ちゃんは、暫く言うか言わまいか考え込んでいたが、決意したように顔を上げ、私にはっきりとした声でこう言った。
「あの…
きゅ…旧校舎が…」
最初はとても心配そうな声で言いよどんだ未来ちゃんを見て、私の予感が的中してしまいそうで怖かった。
でも、“そうでありたくない”と言う期待は、次の未来ちゃんの言葉で一瞬にして引き裂かれた。
「旧校舎が…
旧校舎が、来月を目処に解体されるんだそうです」
「…え……?」
旧校舎が…解体?
そんな馬鹿な。 聞き間違えたのかな?
…ううん、聞き間違えてなかった。
未来ちゃんから突然伝えられた、来月を目処とした旧校舎の解体の話は、私の心に大きな衝撃を与えた。
私は、肩を落として音楽室を後にした。
折角来たのに、先輩で卒業生の私が、本当はこんなんじゃ駄目だよね…
恵美ちゃん、未来ちゃん、紗耶香ちゃん、そして、他の皆、ごめんね…。
トボトボと校舎を出て、横にある旧校舎を見上げた。
確かに、老朽化が進んでて、ボロボロで、コンクリートの壁にひび割れの跡があるけど……
やはり、解体してしまうのは、とても勿体無いと思った。