溺愛宣誓
織田さんと深光さんが海外でのお仕事の話や、親戚の話など当たり障りのない近況報告に花を咲かせている間、私は適当な相槌を打ちながら家庭教師をしていた頃の深光さんの事をボンヤリ思い出していた。
当時深光さんは社会人に成り立てで慣れない仕事に四苦八苦していた筈なのに、週末になるとちゃんと私の勉強を見てくれた。
大らかで、ちょっとお人よしで、面倒見が良くて…まさに一般人が理想とするお兄ちゃんって感じで、人見知りの私でも直ぐに懐いたくらいだ。
あの時はまさか深光さんとこんな気まずい関係になるなんて思ってもなかったけど…。
「ちょっと悪い。トイレ行ってくる。」
そう言って織田さんが腰を上げて、リビングに気まずい沈黙が流れた。
「えと……久しぶり。大きくなったね。」
「あ、えっと…スミマセン。私高校時代から身長変わって無いです…。」
「えっ!ごめん。あ、身長じゃなくて、大人になったね的な?」
「えっ、あ!そ、そうですね!はい!大人になりましたね!」
「…………………。」
「…………………。」
ともすればまた重い沈黙が訪れそうになるのを、やっぱり気遣い強いな深光さんが崩した。
というか、色々耐えられず、ぶっちゃけ出した。
「ゴメン!ホントごめんね!?あの時の事まだ引き摺ってるよね!?いや、でも言い訳させてもらえるなら、アレは事故だったんだよ!無理矢理押し倒した訳じゃないんだ!本当なんだよぉぉ!」
「わ、わ分かってます!だだ大丈夫ですから!私、深光さんがそんな大胆な事出来る人だとは思ってませんから!寧ろ驚いてすっ転ぶおっちょこちょいだってのもちゃんと分かってますから!」
「嬉しいような悲しいような!?…でもさ…多感なお年頃の女の子にアレはちょっとショッキングな経験だったよね。本当にゴメンね。」
「い、いえ…(まぁ、ショッキングでしたけども)……」