溺愛宣誓




―――あの事件は、深光さんが家庭教師をしていたある日、起こった。


お出かけの予定だったお兄ちゃんは深光さんが来ている事も忘れてお風呂に入り、フルメイクとズラの完全装備にバスタオル一丁といううっかりスタイルで部屋へ着替えに向かおうとしていた。

そこにバッタリ出くわしてしまった深光さんはその刺激的な姿にすっかり動転し、お兄ちゃんを巻き込んでの転倒。


その時、台所から御飲み物を持って戻ってきた高校生の私が見た物は、優しいお兄さんと信じていた深光さんが、女装趣味でついでに人格まで変わってしまう一般的には変人と言って憚らない実の兄(バスタオル一丁)を押し倒しているという実にショッキングな光景だった。






「…ああ、そりゃショッキングだな。一生モンのトラウマになりそうだ。…そんなモノを見たカノが不憫…。」


織田さんが遠い目をして呟く。

カーテン越しに深光さんの涙ながらの叫び声が上がった。


「俺だって、俺だって被害者なんだよ!?深手負いまくりの不憫者なんだよ!!家庭教師先でたまに見かけて胸がときめくほんのり恋の予感がした子がっ。当時、俺のドキドキ妄想ナイトショーのキャスト人気ナンバーワンだった子がっ……」

「純情っぽい恋物語が途端に穢れてんぞ。」

「うっかりハプニングで押し倒してバスタオルがハラリなんていう少女漫画の際骨頂みたいなシチュを経て、自分と同じモン見ちゃった俺のトラウマ―――!!!」

「……男に襲われた挙句、産まれたての姿に絶叫された僕こそショックだわ。畜生めが…。」


ソファーの影からお兄ちゃんがぼそっと突っ込む。
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