溺愛宣誓
織田が差し出す名刺に目を落とし天澤寺が「げっ」と呻く。
名刺は天澤寺の会社と市場が被るライバル会社のもの。
現在の所天澤寺ブランドの方が定評があるわけだが、この程度の性能でもこの価格なら…と言った感じで市場を広げている会社だ。
「いやいや、別に今回は乗り換えようって話ではないんですよ。天澤寺さんと取引していない新規の商品をこことやり取りする事になりましてね。いや、ホント全然乗り換えようというつもりではないんですがね…。天澤寺さんの所の商品は性能もよくてブランド名も高いですからねぇ。」
厭味かっ!!!
天澤寺は臍を噛む。
織田の会社にとって、安物売りに走るのはリスキーではあるが、動かす商品が全く無くなるよりマシだ。
尤もその商品は天澤寺ブランドに劣るとはいえ、業績を伸ばしつつある会社なわけで、リスクとしては格段に低い。
つまり織田は今、天澤寺の臍を曲げて取引を停止されたとしても、首の皮は繋がると言う事。
寧ろ今、天澤寺が織田の激麟を逆撫でして取引をまるっと別会社に乗り換えられたりでもしたら天澤寺の首が絞まる。
「二度とカノにチョッカイかけないと誓え。そしたら今回の事は大目に見てやるよ。」
“こっちとしても天澤寺さんとはこれからも末長く良好なお付き合いを続けて行きたいですからね。”と白々しくも営業の顔で嘯く織田。
すんげー腹立つ!!!
……が、天澤寺はぐぅの音も出なかった。
「織田さん、格好イイ………」
うっとり陶酔しきった顔で華ノ子が呟く。
織田が済まなそうに眉尻を下げる。
「それはそうとここの所一緒に帰れなくてごめんな。この間見たコイツの態度が気に触ってぎゃふんと言わそうと……いや、気掛かりで万が一に備えて布石を打っとこうと思ってな。」
嘘だ、コイツ。
絶対、何が無くとも最初からぎゃふんと言わす気だったんだ。と天澤寺は密かに確信する。