溺愛宣誓
そんな彼に彼女が出来た。
はぁ、然様ですか。と最初は周囲も取り合わなかったけれども…。
『いやぁ~、今回はマヂだよ。あの織田っちがゾッコンなんだ。○○デレ…?う~ん、強いて言うならデレレのデレ?お出かけですヨ。ぶっ飛んで行っちゃってますよ、理性と常識が!』
【PN・俺はドSな保奈美ちゃんにゾッコンLOVEさっ♪さん談】
それを聞いてガッカリしたのは織田を遠巻きに眺める程度の女子達で、彼の近しい者達(特には同じ課員)は女性陣のみならず男性陣も我が事のように喜んだ。
恋に現を抜かせば、彼の仕事に対するポテンシャルも多少下がる筈。
ひいては周囲に対する風当りも春風並みに緩く温かく穏やかになるだろう!!!
……全く以って我が事だったようだ。
ともかく日本人アスリートの優勝の兆しに湧く日本国民くらいのお祝いムードが漂った。
―――PM16:35
営業課の室内は研ぎ澄まされたナイフのような空気だった。
デスクに着く者は充血した眼を皿のように見開きPC画面を睨み付けキーボードを必死に叩いていた。
それは午後四時を回った頃…
『あ~そう言えば、先方がこの間の案はまるっと取り止めて、コッチの案で作り直して欲しいそうだ。明日の朝一に打ち合わせになったのすっかり忘れてたよ。てへぺろ☆』
何言いだしやがるんだ、このセクハラしかしないボンクラ上司は。
室内の殺意濃度が一気にレッドゾーンに跳ね上がったのも無理はない。
資料集めに書類作成……冷静に分析してみても手分けして二時間程の延長戦を覚悟しなきゃならない仕事内容。
―――なのだが。