溺愛宣誓

「さ、そんなドMの事はほっといて、ラブラブな俺達は帰ろうか。」

「あ、は…はいっ。」


一瞬にして私の視界も思考も織田さんで一杯になる。

…何故って、私に声を掛ける織田さんは私の鼻先数センチの所から覗きこむから。


相変わらず織田さんの距離感が……可笑しいっ!

ただでさえ胸騒ぐ相手なのに、そんな近距離にいつも必要以上にドキドキしてしまうのだ。

スルリと当たり前に指に絡んでくる手の感覚にも未だに一々ドキドキしてしまう。


「鞍馬せんぱぁ~い。」


飛んできた声に違う意味で心臓が弾けるかと思った。

会社から手を振ってたったったっと軽やかに駆けてくる女性。

髪を靡かせて走る美少女、茜色に染まった世界でそれはドラマのワンシーンみたいな絵面で、往来を行き来するサラリーマン達の視線を釘付けに。


い、い、い、市姫さんっ!!!


恐る恐ると視線を上げれば織田さんの視線も彼女に釘付け。



ショック!!!



私達の近くまで来た市姫さんはそこで今更気付いたみたいな顔で織田さんを見上げてフッと微笑んだ。


「あら?誰かと思えば……随分久しぶり、ネ。」


途端織田さんは彼女を掴んで数メートル先へ引き摺って行った。

その後ろ姿に心臓がぎゅっとなって、途端にぶわっと涙が湧いてきた。


「ど、どーしよ…織田さんが織田さんがぁ………て、大三さん、何してるんですか?」

「保奈美ちゃん保奈美ちゃん!今ね、織田っちと訳あり様の彼女が出現して、台風になる気配だヨ!」

「ちょ、一々保奈美ちゃんに報告しなくていいですからぁーっ!」


携帯で保奈美ちゃんにチクっているらしい大三さんに叫ぶ。

電話口からは『え?マジ!?私も見たい!でも残業っ!ちょっと大三、逐一をドラマ仕立てで面白可笑しく報告するのよっ!』という声が聞こえる。

絶対これ、心配というより娯楽と思われている……。

< 30 / 153 >

この作品をシェア

pagetop