溺愛宣誓
強張った私の頬にすっと温かな指の感触が滑る。
「カノ」
それに導かれるように顔を向ければ、私の頬を指でなぞりながら織田さんは酷く苦しそうに言った。
「カノの願いなら俺はどんな事だって叶えてやるよ。だけど………嫌いになったから別れてってのだけは無理、ヤダ、却下、拒否、コブハダ、veto―――…」
「わわっ、違います!そうじゃなくて、その……」
私は思い切って、抱えていた問題をぶちかました。
「……え?不審者?」
きょとんとした顔で問い返す織田さんに私はコクコクと頷く。
どうも最近、私のアパート周辺で不審者が目撃されているらしい。
掲示板に注意喚起の張り紙がしてあったし、ゴミ出し場の炉端会議でも今一番ホットな話題だ。
私は伺うようにチラリと織田さんの顔を盗み見る。
織田さんは「不審者か…」と眉を顰めている。
織田さんっ、気付いて!
ひょっとしたらその不審者、織田さんかもしれないって!