溺愛宣誓
何と言っても織田さんには前例がある。
『送ってくれて有難うございました。』
『ああ。もう遅いし、早く寝ろよ。』
そんな挨拶を交わして、私は三階の自分の部屋へ向かった。
駐輪場の脇にある大きなもみの木の傍らに立つ織田さんに私は別れる時に手を振り、階段の踊り場毎に手を振る事三回、部屋に入る前にもう一度。
後ろ髪引かれながらも部屋に入るなり私は玄関に突っ伏し、ゴロゴロと転がった。
『きゃ~ぁ、織田さんったら今日もステキだった~。』
はっ。こうしちゃいられない。
私は早速今日の織田さんを脳内で完全リプレイし始めた。
きりっと前を向いて颯爽と歩く織田さん。
少し伏し目がちのアンニュイな織田さん。
はにかむみたいに笑う織田さん。
どれもステキ。
そうこうして家へ辿り着くまでをじっくり思い起こした私はその集大成で、先ほど別れた時の織田さんを思いだした。
……もう幻影すら残ってないとは思うけど…。
せめてあのもみの木の光景に脳内アルバムにインプットされた織田さんを完全合成してうっとりしよう。
そうと決めた私はいそいそと玄関を開け
―――固まった。
もみの木の下に織田さんが居た。