東京血風録

 すると、
「力を貸してくれるかい?」と、唐突に訊ねられ、びっくりしたものだ。
 声にもせず、ただ御意の意思だけ伝えた。
 すると、布の袋の中から真っ黒い木刀をゆっくりと抜き出した。まだ、幼さが残る小学校高学年の遥の顔は緊張からか表情が消えていた。
 木刀の切っ先をそやつに向けると、ゆっくりと顔の部分がこちらを向いたように思われる。
 悲しみと憂いを帯びた表情だった。実際には顔はなく、そう感じただけだが……。
 後は簡単だった。木刀をそのものにそっと突き刺すと、形が少し歪んだ。
儂のではない遥の思念が儂を通り抜け、その物体に到達すると、その地縛霊はふぁっと弾けたかと思えばそのまま霧散して消えていった。
 あっさりしたものだったが、切なさと安堵とが入り混じった複雑な心境だった。


このくらいのことであれば、木刀を出さずとも布の袋越しにそのくらいのことは出来たのだが、この際は黙っておこう。
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