東京血風録
突き、突き、突き。
男の身体を自在に操りながら、右に左に前に後ろに避ける様は、敵ながら感嘆するほどである。
遥は息を整えると、右上段に木刀を構えた。得意であるか滅多にみせない型である。
遥奥義・上昇鬼龍と呼んでいた一撃必殺の技だ。
男との距離を詰めると、遥の木刀が弧を描いた。
水平に。
そこから更に切っ先は右上手へと伸びた。
この時、遥の身体は更に前進していて、距離を一気に詰めていた。
その時には、木刀の切っ先は男の左頭上に聳えていた。
この間僅かコンマ0.5秒。
男と左肩に載る不気味な顔とが、驚いている瞬間に木刀は右斜め下へ、袈裟斬りの要領で振り下ろされた。
上昇鬼龍=2段式の高速移動袈裟斬りであった。
左肩の頭の中心を綺麗に一閃した。
呆気なく、左肩のモノは“あ”の口の形を作ったまま、弾けるように霧散した。
男は、糸の切られた操り人形のように、膝から崩れ垂直にストンと倒れた。
崩れきらないうちに、遥がスッと脇に腕を通して男の身体を支えた。
このような、何かに取り憑かれたような者すらも断ち切り救える、王道遥こそは“悪霊狩り師”なのである。