東京血風録

2 語り部・剣鬼 伊號丸

(頼むから静かに寝かせてください)
 そう言うと、遥の意思が遠のいていった感覚がした。

 いかんいかん。
 あまりにも不用心だったわい
 こんなに簡単に、思念が流出しようとは・・・。
 深夜だったので、遥の意識が鈍くなっていると思い込んでいたのだ。
 しかし、遥は儂を抱いていたのじゃった。思念の届く距離じゃった。
 危ない危ない、心して、静かに考えるとしよう。
 儂は、剣鬼・伊號丸じゃ。

 どこまで話したかの。
 そうじゃ、あの技のことは説明せねばなるまい。
 “血風吹きあれん”である。
 遥究極奥義とも名付けられた、必殺技である。
 ある時、小さな邪鬼に苦しめらている者がいた。
 遥流に言えば、小さな魍魎か。
 断ち切ろうと挑んでいくと、その魍魎は身体を離れ逃げ出した。
 猫ほどの大きさのそれは、じつに素早かった。
 その素早さといったら、一目散に遠ざかる様は脱兎も脱帽するほどだった。
 慌てて追う遥。
 手にした儂にも、遥の念が流れ込んでくる。
 霊や魍魎を断ち切る。とそのことを説明せねばなるまい。

 遥の祖父、王道蓮左がそうであったように、(念)が関係してくる。
 蓮左の場合、杖に念を流してその念の力により、霊なりに浄化作用を催させ、現世との未練なりを断ち切っていた。
 遥の場合は少し違って、遥が流し込んだ念を儂が増幅して、より強固なものとして断ち切るのである。
 依って、蓮左よりはるかに強力な念と作用であると云える。
 そのことが、王道流除霊術の最大の特徴であり根幹である。
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