東京血風録
 男が頭を上げたので、よく見てみると詰め襟を着ていても分かるほど、筋肉の隆起が見えた。
 遥よりは背が低いので180センチ弱であろうか。
 だが、身に纏った筋肉のせいで体積と威圧感が半端ない。
 後ろに流した短髪が、何かで固めたのであろう、ツンツンとしながらキラキラと光り、厳つさを際立たせていた。
 口元に薄く笑みを浮かべてこちらを見ている。

「あの~、あなたは?」
 沈黙を破って遥が切り出した。
「何故、僕の名前を?」
 男は、笑みを浮かべながら答えた。
「これは失礼しました。嬉しさのあまりつい声を掛けてしまいました」
 全く悪気のない素振りで謝りながら、男は続けた。
「僕は藤堂 飛鳥と申します」

 とうどうあすか。なんと遥に似た名前よのぉ。
 母音が一緒なのだ。すると、
「名前似てますよね。祖父の意向で故意に似せているんですよ、実は」
 飛鳥の方から答えが出た。
 当然の如く、遥が疑問を投げかける。
 「僕の祖父と何か関係があるんですか?」
 「先々代が大変お世話になったそうです。遥様がいずれ大成するので、その時は協力してくれと幼い頃から聞かされてました。こうして会えたこと光栄に思います」
 全く知らない唐突な話に、遥も面食らっていた。 

「実は僕も遥様と同じような能力があるんですよ。これに関しては全くの偶然なんですけどね」
 全く、重ね重ね驚く話ばかりで疲弊するわい。

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