東京血風録
電車の中で、話しながらいくと藤堂飛鳥に編入の手伝いをしたのは、加倉井荘司であるらしい。
自称・浄霊コーディネーターの男である。
独りで学校の周りを探索していると、声をかけてきたらしい。
そういう類の人間を見抜く才覚も持ち合わせているようだ。
遥に至っては、先程までの緊張が嘘のように解けて、安堵の表情である。
現金な男よの。
学校へ着くと、大勢の生徒に交じり、校舎内へとなだれ込んだ。
編入手続きは職員室の横に併設された応接室で行われた。
用意した書類と、簡単な質疑応答ですぐに受理された。
遥などは、あまりに簡単に事が進むので呆気にとられていたが、その中に奇妙な者がいることに気づいているだろうか。
遥と飛鳥の座るソファーの横に立っている数人の中に。
学園内の怪異現象の全てを知り、その責任の義務を果たすべく魍魎ハンターを招聘した張本人、伽藍学園教頭の瀧澤である。
ます、顔色が極端に悪い。土気色というのはこういう色のことを指すのであろう。
額には玉状の脂汗を浮いていて、明らかに具合が悪そうである。
齢50そこそこだろうが、白髪の交じった頭髪をくしゃくしゃにして、生気のない眼で不安そうに見つめていた。
公言はしてないのであろう、この1件に自らの将来の行く末を案じ、不安に苛まれているのであろう、
その場には、教頭の他に担任になるという男性教諭と生徒会会長の姿もあった。
1人ずつ軽く挨拶を済ますと、その場はお開きとなった。
扉を出ると、すぐ瀧澤が2人に走り寄ってきた。
「あなたが・・・・・・・・・・・・・」
その先は言葉にならなかった。
公にできない立場上、それ以上は憚られたのかも知れない。
遥の右手を半ば強引に引き寄せると、自身の両手でしっかりと包み込むと、深々と頭を下げた。そして、
「ど、どうか、宜しくお願いします」
と、それだけを言うと人目を避けるように
廊下の端っこを小走りで去っていった。
遥と飛鳥は顔を見合わせると2人とも顎を少し引いて、お互いに意志を伝えた。
それから2人は並んで歩き、教室へは向かわず、出口へと向かった。