東京血風録
日暮幸多は、脚をバタつかせながら周囲を見渡し、遥に気が付いた。
一瞥すると、脱兎の如く走り出した。
それは陣地不背の範囲内から逃げようとしていろように見えた。
時折、前のめりになり、手のひらをつくのだが、その衝撃を手首の反動で利用し更に距離を伸ばす。
獣のような走り。速い!
遥の左方向、校舎の角を曲がり裏側へ出ようというのか。
確かに、その方向なら陣地不背の圏外へと逃れられよう。
そろそろ角に差し掛かろうという所で追い付く影があった。
藤堂飛鳥である。
日暮が走り出した瞬間に、移動する方向を目測し、先回りしようとしていたのだ。
ちょうど角の所で相まみえる。
交差する直前から、飛鳥の右腕は弓を引くように後ろに構えていた。
交差(クロス)する。
飛鳥の右腕は、大振りのストレート。
加速と左脚の踏み込みにより、スピードと勢いが凄い!
全体重が載った重いストレートは、的確に日暮の顔面を狙っていた。
彼は言っていた、
「僕の身体は霊的なモノを弾くんです」
と。
日暮は左手で顔を覆っていた。
飛鳥のバンチは顔面に迫った、すると不思議な事が起こった。
飛鳥の右手の先に空気の膜が、日暮の左手の所にも同様な膜ができて、みるみる形を変えて近づいた。
それは“圧縮“だった。
その場の飽和を超えた時、押される側即ち日暮の膜が、爆ぜた。
同時に膨大な質量なエネルギーが流れ込み、日暮の顔が歪んだ。
日暮の顔を先頭に、身体ごとその奥にある塀に向かってぶっ飛んだ!
その速さと衝撃、人間では無事では済むまい。
塀に頭から激突する!と思われた刹那、
日暮は身体をくるっと回転させ、塀を地面に見立てた様に、両手両足で着地した。
塀が、ビシリと悲鳴をあげる。
そして、日暮の眼は爛々と飛鳥のことを見据えていた。
両足の屈伸を利用し、水平に飛鳥へと跳んだ。