東京血風録
飛鳥は迎撃するため、体勢を整えていた。
ふわりとした動きだったので虚を突かれた、
3メートルは距離があるだろうところを腕が届いた。
空中で左腕を振ったのだ、右へ。
と、見入った瞬間、左手が顔のすぐ横にあった。
咄嗟に顔を守る為、右肩を上げた。
次の瞬間、丸太で肩を殴られたかと錯覚するような衝撃が襲った。
べくん。
奇妙な音は自分の肩の内側からだった。
衝撃で身体が浮いた。
肩の痛みから、身を屈めていた。
その眼前に、日暮幸多の姿があった。
飛鳥は恐怖した。
亀のように身体を丸めた。
右側面・空から、強い打撃が降ってきた。
何をされたかは解らなかった。が、ボールさながらに地面へと叩きつけられていた。
左半身と背中を強かに打ちつけ、呼吸が止まり、涙が出た、
涙の先には、サッカーボールのストライカーのシュートのように、右足を後ろに振り上げた日暮の姿があった。
死ぬ???
飛鳥の脳裏に不吉なビジョン。
飛鳥が咄嗟にとった行動は、両手を叩くことだった。
黒い球体。
サッカーボールさながら、黒い球体を右足を振り抜いた日暮は、そのままの姿で動きを止めた。
秘技中の秘技。
恐るべし能力。あらゆる力をも吸収する能力。人間なら昏倒するとも。
自分に迫り来る圧倒的な暴力でさえ、吸収して見せた。
日暮は、両腕をだらりと垂らすと膝からかくんと崩れ落ちて、飛鳥の前で跪いた。
頭もがくりとうなだれてしまっていた。
飛鳥も安堵の表情。
人間なら昏倒していた。
日暮は、うなだれながらも右腕を天高く挙げていた。拳を。
その腕は、飛鳥の顔面へと振り下ろされた。
バンチではなく、鉄槌。
拳のまま、手刀のように振り下ろす。
飛鳥は見えてはいたが、動けなかった。
右肩は、動きようがなかったのだ。
飛鳥の頭部は、拳と地面によって挟まれ
逃げ場を失った衝撃は、脳を揺らした。
飛鳥はそのまま気を失った。
日暮は、もう1撃食らわそうと、右腕を再度挙げていた。が、その腕を止めたものがある。
遥の木刀・伊號丸であった。