東京血風録


 無防備で、防具を着けてない素の頭を剣道家である遥が、本気で打ち抜けたのか否か。
 真偽のほどはわからないが、結果として
摂津秋房に身体の何処にも当たることは無かった。

 それよりも何も。
 剣道家であり、魍魎ハンター・王道遥渾身の打ち込みを、左手1本で受け止めてしまったのだ。

 焦った遥は、両腕に力を込め押したり引いたりするのだが、一向に微動だにしなかった。
 そのまま摂津は、ぐいと儂を引き下げると、下へ下へと下げていった。
 やがて、切っ先が屋上の床にカツリと音を立ててぶつかった。すると、
左足を木刀の真ん中ほどに載せた。



 支点・力点・作用点。
この場合、どこがどこになるのだ?
この時、遥はどうしたほうが最適だったのか。


 摂津秋房が左足に力を込めた。
 遥は瞬間的に、両腕に力を込めて踏ん張った。
 支点・力点・作用点。
 地面についた切っ先と、踏みつける摂津の足と、それを堪える遥の両腕と。
 3つが揃った。


 まず力を込められたら、それに逆らわずに手を離して、力の逃げ場をつくろうなどとは概ね誰も思わないだろう。



 パキリ!
 小さな破裂音と共に、黒檀の木刀・伊號丸は折れた。
 まさしく、平仮名の“くの字”のように。
 
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