東京血風録
遥の敗北が決まった。
木刀と共に、遥の心も折れたのだ。
“血風吹きあれん”どころか、遥奥義の1つも出しておらん、で負けた。
完敗だ。
この時の遥の心は無。
目を見開き、青醒めた顔で、無言のままその場に跪いてしまった。
敵の眼前で。
(遥~~~!!遥どの~~~っ!!)
危険を案じ、儂は叫んだが、それは杞憂に終わった。
摂津秋房は、次の攻撃を繰り出そうとはしなかった。
「なんだ~?時期尚早じゃないのか~?」
顔に似合わぬ、間延びした声で摂津は語りかける。
「私とやり合うには、鍛練が足りんのではないか。それより伸びしろはまだあるのかな?この程度で挑んでくるとは片腹痛い」
口調とは裏腹に、憮然とした表情と呆れ顔を足して割ったような複雑な顔をしていた。
「面白味がないなぁ」
跪いたままの遥に、上から見下ろしながら、軽く腕を組んだ摂津が言葉を掛け続ける。
「因縁の決着を着けたいのに、これじゃあ興冷めしちゃうじゃないか」
因縁?決着?なんのことじゃ?
ここで遭ったのは偶然ではないのか?
遥は聞いておるのか、感情に変化はないままだ。
疑問が残るところじゃが、摂津秋房の言葉はまだ続いた。
「あのさ~、剣鬼の君でもいいから覚えておきなよ。今日から2週間後の日曜日、長野県の○○村へ僕は行く。そこへ来い。2週間で、どこまで成長できるかは知らんが精度を上げる事くらいは出来るんじゃないのかい?それに仲間もいるんだろ?合流して作戦でも練ってくるといい」
何たる言い草、洞察力?
全てを見越しておるのか、なんなのだこの余裕と自信は。
摂津秋房は踵を返して歩き出すが、2歩進んだところで立ち止まり、振り返るとこう言葉を投げてきた。
「あ、そうだ。我が一族との兼ね合いもあるから、どうか逃げないように」
後は振り返ることなく、去って行った。