東京血風録
一同が、頭を悩ましていると、
「いずれ判ることでしょう」
と柊一。
「ひとつデモンストレーションをしましょう」
と続け、
「藤堂さん、協力していただいても宜しいですか?」と。
「??」
「あ、そのままで結構です」
と促し、
「真琴、藤堂さんの怪我の治療をしてくれまいか」
と、柊一がいうや否や、真琴が反論する。
「ちょっと待ってよ!なんでこんなどこの馬の骨だか分からない人に、施術をしなきゃならないんですか!王道家当主になら話もわかりますが、それもデモンストレーションでなんて!なんでそんなことが言えるの!本当にもう信じられない」
一気呵成に喚きたてたが、柊一はそれに動ぜず、
「当主の前だからでしょうが。
我々の存在と有意義性を証明してもらえませんか?」
と、優しく諭した。
動かなくていいと言われた飛鳥であったが、真琴のまくし立てに完全に動けなくなっていた。
真琴は何も言わず、スッと立ち上がると憮然とした態度のまま、藤堂飛鳥の背後に立った。
胸の前で両手を組み、印を切ると同時に口許で小さく言霊(マントラ)を唱えた。
気のせいか、組んでいる両手の隙間がうすら光ったような感じがしたが、その両手を飛鳥の肩口、包帯が巻いてある所にあてがった。
そのままで言霊は小さく呟き続けている。
全員が無言で見つめる中、2分も経っただろうか。
真琴の言霊が速くなり、表情が険しくなった。眉間に皺が寄る。
額には玉状の脂汗が浮いた。
そして、低い唸り声を数十秒続けた後、
“はっ!“と、気合いを込めると、長い長い溜め息を吐いた。
「終わりました」
真琴は憔悴しきった顔でそう告げた。
「どうですか?藤堂さん」
柊一の問い掛けに、藤堂は、
「うお~~~~~~~~~っっ!!
痛みが無い~~~~~~~~っっ!!」
と、叫び腕をぐるぐる回した。
「すごいですね」
と、遥が褒めると、
「まぁ、あれくらいは序の口です」
と、謙遜しながらも嬉しそうな態度は見るからに明らかだった。
「僕の護符の効果は、また改めて披露いたします」
柊一は、そう告げると、
「じゃ、僕たちは一旦戻るとします。
然るべき準備をしたいと思います」
と、席を立った。
「わざわざ来て頂いて申し訳ございませんでした」
遥が告げる。
「元気そうで何よりでした。更なる飛躍、期待しております」
柊一の言葉と共に、3人は事務所の出口まで進んだ。