東京血風録



 出口の扉の所で、柊一が振り返る。

「そう言えば、今日霧華さんはいらっしゃらないので?」
 遥は、
「姉さんのこと、知ってるんですか?」
と、尋ね、
「電話で話したのと、こちらの住所と地図を郵送していただきました。その時、写真入りの名刺も同封されていたので、1度お会いしたいなと思っていたのです」

「姿見てないんですよ、ここ2・3日」
「残念です」
と、遥と柊一。
 その一連の流れの中で、柊一の陰に隠れている真琴の顔が歪んでいることに、気がつく者はなかった。



 そのまま、帰路についた。


 

 事務所の中で、残された遥は儂・伊號丸を右手に握り締めて、会話をした。
(さて、どうするよつもりじゃ、遥殿)
(山に籠もろうかと思います)
(山籠もりかえ。充分な鍛錬が必要じゃな)
(はい)


 何とも落ち着いておる。
 遥は何か吹っ切れたのかえ。
 右手から感じる感情も妙に落ち着いておる。
 これは吉兆か否か。



 今の遥の心の中は、明鏡止水なることじゃった。
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