東京血風録





 さて、事務所を出た飛鳥・柊一・真琴の3人は最寄りの駅まで一緒に歩くこととなった。
 近況やこれからのことなどを話しながら歩いていたのだが。
 駅まで、あと数分の所で、数人の者たちが逃げまどう現場に遭遇した。

 よく見ると、1人の男が刃物を振り回しているのが見えた。
 距離約15メートル。
「物騒だな」と飛鳥。
 眼鏡を弄りながら、様子を見ていた柊一が、
「いけまへん。取り憑かれてますな」と。
 その後、男が歩道をこちらへ向かって来るのが見えた。

「東京モノがどの程度か見極めますか。
初陣決めるぞ真琴!藤堂さん仕留めお願いしますよ」
 柊一の声に、2人が御意で応じた。


 柊一が数歩前へ出て、距離を詰めた。
「護符連陣」
 右手の指をバッと開くと、トランプのカードのように護符が銀杏型に開いた。
 その護符は、梵字と漢字とで書き巡らされた不思議なモノだった。
 手首を使い、前方へ護符を投げると綺麗に直線となって、護符が舞った。
 その数枚が、更に前方の空間の空中で、
ピタリと止まった。
 枚数は6枚。右縦に3枚、左縦に3枚。
 それらを繋げてみると、横幅3メートル
高さ2メートルくらいの長方形で、丁度柊一たちと男の間に立つ壁に見える。
 よく見ると、壁のすぐ下の地面には、5枚の護符が星型に並んでいた。
 繋げると、即ち五芒星である。

 その最中、柊一の後ろに控えていた真琴が、指を2本口許へ持っていき、指笛の要領で音を鳴らした。
 指笛よりも、何オクターブか高い奇妙な音だった。
 男が、その音にビクッと身体を震わせ、こちらへ猛ダッシュしてきた。


 おもむろに柊一が、左前の半身になると
両手の平を上にしたポーズで、指をおいでおいでしながら、
「キャモーーーーーーンッ!!!」
と叫び、男を挑発した。

 真琴は浮かない顔をしていた。
 真琴はこの時、柊一の後ろでずっと言霊を唱えていた。
 前にいる術者に、攻撃力のアップと防御力を高める支援をしていた。
が、この柊一の霊と対した時のテンションの高さが苦手だった。
 いい男で技術も申し分ないのに、この上から見下すような態度が、そんなことしなくていいのにと、いつも思ってしまう。
 柊一と真琴は幼なじみだった。
 小学校、中学校まで一緒で、神主である真琴の父が奈良県にある神社に移ることになったことで、転校したのだった。
 最強の浄霊幼なじみコンビなのである。



 距離5メートル、その中間に護符の壁。
 男が壁を通り過ぎようとすると、見えない蜘蛛の巣に掛かったかのようで、全身を絡めとられるように停止した。
 微弱電流を流されてるかのように、ピクピク痙攣している。

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