東京血風録
店先には、70年代に作られたであろう、高さ50センチもあろう、ロボットの形のブリキのおもちゃがあった。そのロボットが呼んだのであろうかと思い、目を凝らして見てみた。ブリキのロボットが呼ぶ筈もなかった。
もう1度名前を呼ばれたので、更に近づいてよく見た。ブリキのロボットのまわりには、よく分からない物が並んでいた。
ブリキのロボットの陰に隠れて“それ”はあった。
小さな短い木刀。
今でこそ、黒檀という言葉と素材を知っているが、その当時の遥には判りようがない。
黒檀の木刀だった。
出逢い。
そう表するのがしっくりくる。
柄を握った遥の手に、その木刀は喩えようもないくらいフィットした。
柄の上部分には“伊號丸”と掘られ、白く浮き上がっていた。
「い、ご、、う、、まる?」
少年の遥が口に出してみると、言葉ではなく、正しく表現すれば音としての言葉ではなく、頭の中に直接響くような感覚でその“声”は語りかけてきた。
(おう、そうじゃ)
遥は驚いた様子もなくその声を聞いていた。遥の中にある感情は、昔から知っていたような懐かしく感慨深いようなものである。
(儂は剣鬼じゃ)
これが剣鬼・伊號丸と王道遥の出逢いであった。