桜色の恋 (龍と桜とロボットと。)
記憶
泣きながら走って、路地を抜けて。
ある程度の大通りまで出た頃には
もう涙を流す余裕もないことを自覚した。
「っ!?」
手に持ったままだった携帯が震える。
非通知の、電話……
震える指でスライドさせて、
そっと耳に当てる。
『よぉ…久しぶりだな』
っ!
耳に入った瞬間、背筋が凍るように身体中に悪寒が走る。
少し低くなっても、
それは忘れられない声だった。
『ちゃぁんと、言うこと聞けたんだな日和?』
ひゅ、と喉が鳴った。
『お前の事を助けてやるよ。
誰にも求められないイラナイコのお前を
優しい俺が特別に助けてやる。』
イラナイコ。
誰にも求められない子。
何年もたった今でも、
その言葉と声は耳から離れていなかった。
身体が固まって、絶望が襲う。
私は裏切り者で、最低な人間。
もう誰にも必要となんか、
されないかもしれない……
心の何処かがすぅっと薄くなる。