月に一度のシンデレラ
黙っている俺を余所に、マリカは手早く着替えを進めていく。白いブラジャーがなまめかしい。
置いて行かれそうになって、慌てて準備をしている自分はなんだか滑稽だった。ペースを乱されるような気がして腹立たしい。でも、同時に楽しさも感じている。
ホテルを出ると、マリカは自然に俺の腕に手を回した。心地よい温もりが、ジャケットの生地を通して伝わる。
駅までの道を足早に歩いた。
「いいの? 一緒にいるところ、見られちゃって」
わざとそんな風に訊いてみる。その瞬間の、どんな小さな反応も見逃さないようにしようと思った。他に男がいるのか。もしかして既婚者なのか。変装している理由は、そのあたりが妥当なところだろう。
「誰に見られたら困るのぉ? あ、良太さんの彼女に? それとも、奥さんかな」
マリカは屈託のない笑顔で答えた。
胸がざわつく。俺に他の相手がいても構わないと思っているのか。かりそめの相手として、俺に声をかけたのであろうことは分かっている。それでも今後の進展をどこか期待してしまっている自分がいた。そして、そのことを気取られるのは嫌だった。